2009-09-02
一本の樹
どんなに堅牢な建物でも
時の積み重ねに蚕食されていくのに
たった一本の樹が
時の流れをやさしくまとめて
静謐なたたずまいであり続けることの不思議
たぶんこの樹も老いたのだろう
でも、いつからそこにあるのかは誰も知らない
その足元の地は小さくなりこそすれ
時を遡れば女帝が愛した小墾田(おはりだ)の宮
唯一のしるべを担う樹は
歴史も人の解釈にもどこ吹く風と
その身体を少し傾けて
水田のうつろいを見るのに忙しい
昼間は無邪気な子供のように
日暮れにはもの想う老人のように
春先にはいくつもの生命の燦めきに喜び
夏の盛りには日照りを案じ
秋には実りを讃え
冬の孤独に耐えてきた
こうしていくつもの年月が巡り
やがてこの樹も「神」と呼ばれるものになったのであろう
文:chie