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2009-09-02

一本の樹

Aug/22/2009

どんなに堅牢な建物でも

時の積み重ねに蚕食されていくのに

たった一本の樹が

時の流れをやさしくまとめて

静謐なたたずまいであり続けることの不思議

たぶんこの樹も老いたのだろう

でも、いつからそこにあるのかは誰も知らない

その足元の地は小さくなりこそすれ

時を遡れば女帝が愛した小墾田(おはりだ)の宮

唯一のしるべを担う樹は

歴史も人の解釈にもどこ吹く風と

その身体を少し傾けて

水田のうつろいを見るのに忙しい

昼間は無邪気な子供のように

日暮れにはもの想う老人のように

春先にはいくつもの生命の燦めきに喜び

夏の盛りには日照りを案じ

秋には実りを讃え

冬の孤独に耐えてきた

こうしていくつもの年月が巡り

やがてこの樹も「神」と呼ばれるものになったのであろう


文:chie